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東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)32号 判決

甲、乙、丙事件原告 有限会社日本ディスク・スペース

右代表者代表取締役 永瀬憲治

右訴訟代理人弁護士 竹中英信

甲事件被告 立川税務署長三好毅

乙事件被告(浜松税務署長承継人) 浜松東税務署長倉田外茂男

丙事件被告 伊勢崎税務署長山口高史

右三名指定代理人 齋藤隆

〈ほか一名〉

被告立川税務署長指定代理人 岸本武之

〈ほか三名〉

被告浜松東税務署長指定代理人 武内信道

被告伊勢崎税務署長指定代理人 渋谷守

〈ほか一名〉

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  甲事件

(一) 被告立川税務署長が昭和六〇年三月二六日付けでした原告の昭和五六年六月分、同年七月分、同年九月分、同年一〇月分及び同年一二月分の各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定を取り消す。

(二) 訴訟費用は被告立川税務署長の負担とする。

2  乙事件

(一) 被告浜松東税務署長被承継人浜松税務署長が昭和六〇年三月二六日付けでした原告の昭和五六年一一月分、同年一二月分及び昭和五七年一〇月分の各物品税の決定及び無申告加算税賊課決定を取り消す。

(二) 訴訟費用は被告浜松東税務署長の負担とする。

3  丙事件

(一) 被告伊勢崎税務署長が昭和六〇年三月二六日付けでした原告の昭和五七年二月ないし一一月分、昭和五八年一月分、同年四月ないし一二月分及び昭和五九年一月ないし五月分の各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定を取り消す。

(二) 訴訟費用は被告伊勢崎税務署長の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告立川税務署長の決定処分及び原告の不服申立て

(一) 被告立川税務署長は、昭和六〇年三月二六日付けで、別表一記載のとおり、原告の昭和五六年六月分、同年七月分、同年九月分、同年一〇月分及び同年一二月分の各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定をした。

(二) 原告は、右各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定につき、昭和六〇年五月二〇日、被告立川税務署長に異議申立てをしたが、同被告は、同年八月一二日、右異議申立てを棄却する旨の決定をしたので、原告は、さらに、同年九月一二日、国税不服審判所長に審査請求をしたが、同所長は、昭和六一年一〇月二三日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月三一日に原告に裁決書謄本を送達した。

2  浜松税務署長の決定処分及び原告の不服申立て等

(一) 浜松税務署長は、昭和六〇年三月二六日付けで、別表二記載のとおり、原告の昭和五六年一一月分、同年一二月分及び昭和五七年一〇月分の各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定をした。

(二) 原告は、右各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定につき、昭和六〇年五月二〇日、浜松税務署長に異議申立てをしたが、同税務署長は、同年八月一三日、右異議申立てを棄却する旨の決定をしたので、原告は、さらに、同年九月一二日、国税不服審判所長に審査請求をしたが、同所長は、昭和六一年一〇月二三日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月三一日に原告に裁決書謄本を送達した。

(三) その後、大蔵省組織規程(昭和二四年大蔵省令第三七号)の一部を改正する省令(平成元年大蔵省令第五八号)によって浜松税務署が浜松東税務署と浜松西税務署とに分割されたことに伴い、平成元年七月一〇日以降、(一)の各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定に関する権限に属する事務は、浜松税務署長から被告浜松東税務署長に承継された。

3  被告伊勢崎税務署長の決定処分及び原告の不服申立て

(一) 被告伊勢崎税務署長は、昭和六〇年三月二六日付けで、別表三記載のとおり、原告の昭和五七年二月ないし一一月分、昭和五八年一月分、同年四月ないし一二月分及び昭和五九年一月ないし五月分の各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定をした。

(二) 原告は、右各物品税の決定及び無申告加算税賦課決定につき、昭和六〇年五月二〇日、被告伊勢崎税務署長に異議申立てをしたが、同被告は、同年八月一三日、右異議申立てを棄却する旨の決定をしたので、原告は、さらに、同年九月一二日、国税不服審判所長に審査請求をしたが、同所長は、昭和六一年一〇月二三日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月三一日に原告に裁決書謄本を送達した。

4  原告は、1ないし3の各(一)の各物品税の決定(以下「本件各決定処分」という。)及び各無申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)に不服であるので、その取消しを求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否

1  (被告立川税務署長)

請求の原因1は認める。

2  (被告浜松東税務署長)

同2は認める。

3  (被告伊勢崎税務署長)

同3は認める。

三  抗弁

1  (被告立川税務署長)

(一) 原告は、昭和五六年六月から同年一二月にかけて、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターを、東京都立川市内の製造場で製造して移出したところ、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターは、後記4のとおり、昭和五九年法律第一五号による改正前の物品税法別表課税物品表第一一号の5(以下、消費税法(昭和六三年法律第一〇八号)附則二〇条による廃止前の物品税法別表課税物品表第一一号の5を「法別表一一号の5」と、昭和五九年法律第一五号による改正前の物品税法別表課税物品表第一一号の5を「法旧別表一一号の5」という。)の「その他の電気楽器」に該当するものであるから、原告は、原告の製造に係る詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターの右製造場からの移出に対して、当該移出に係る各月分の物品税法二九条二項の物品税納税申告書を被告立川税務署長に提出すべき義務がある。

(二) しかるところ、原告が(一)の製造場で製造して、昭和五六年八月、同年七月、同年九月、同年一〇月及び同年一二月に移出した詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターの右各月分の物品税の課税標準額が別表一の課税標準額欄記載のとおりであったのに、原告は、物品税納税申告書を被告立川税務署長に提出しなかったので、被告立川税務署長は、国税通則法二五条に基づき、請求の原因1の(一)の物品税の決定をしたものであり、右物品税の決定は適法である。

(三) また、被告立川税務署長は、原告が物品税納税申告書を提出しなかったことにより、(二)の物品税の決定を行うに伴い、国税通則法六六条一項(ただし、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ。)一号に基づき、各月分の物品税について(二)の物品税の決定により新たに納付すべき各月分の税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を賦課する請求の原因1の(一)の無申告加算税賦課決定をしたのであって、右無申告加算税賦課決定も適法である。

2  (被告浜松東税務署長)

(一) 原告は、昭和五六年一一月から昭和五七年一〇月にかけて、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターを、静岡県浜北市内の製造場で製造して移出したところ、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターは、後記4のとおり、法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」に該当するものであるから、原告は、原告の製造に係る詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターの右製造場からの移出に対して、当該移出に係る各月分の物品税法二九条二項の物品税納税申告書を浜松税務署長に提出すべき義務がある。

(二) しかるところ、原告が(一)の製造場で製造して、昭和五六年一一月、同年一二月及び昭和五七年一〇月に移出した詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターの右各月分の物品税の課税標準額が別表二の課税標準額欄記載のとおりであったのに、原告は、物品税納税申告書を浜松税務署長に提出しなかったので、浜松税務署長は、国税通則法二五条に基づき、請求の原因2の(一)の物品税の決定をしたものであり、右物品税の決定は適法である。

(三) また、浜松税務署長は、原告が物品税納税申告書を提出しなかったことにより、(二)の物品税の決定を行うに伴い、国税通則法六六条一項一号に基づき、各月分の物品税について右(二)の物品税の決定により新たに納付すべき各月分の税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を賦課する請求の原因2の(一)の無申告加算税賦課決定をしたのであって、右無申告加算税賦課決定も適法である。

3  (被告伊勢崎税務署長)

(一) 原告は、昭和五七年二月から昭和五九年五月にかけて、詩吟コンダクター、邦楽コンダクター及び邦楽音階トレーナーを、群馬県佐波郡境町内の製造場で製造して移出したところ、詩吟コンダクター、邦楽コンダクター及び邦楽音階トレーナーは、後記4のとおり、昭和五九年四月一二日以前の移出分については法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」に、また、同月一三日以降の移出分については法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に、それぞれ該当するものであるから、原告は、原告の製造に係る詩吟コンダクター、邦楽コンダクター及び邦楽音階トレーナーの右製造場からの移出に対して、当該移出に係る各月分の物品税法二九条二項の物品税納税申告書を被告伊勢崎税務署長に提出すべき義務がある。

(二) しかるところ、原告が(一)の製造場で製造して、昭和五七年二月ないし一一月、昭和五八年一月、同年四月ないし一二月及び昭和五九年一月ないし五月の各月に移出した詩吟コンダクター、邦楽コンダクター及び邦楽音階トレーナーの右各月分の物品税の課税標準額が別表三の課税標準額欄記載のとおりであったのに、原告は、物品税納税申告書を被告伊勢崎税務署長に提出しなかったので、被告伊勢崎税務署長は、国税通則法二五条に基づき、請求の原因3の(一)の物品税の決定をしたものであり、右物品税の決定は適法である。

(三) また、被告伊勢崎税務署長は、原告が物品税納税申告書を提出しなかったことにより、(二)の物品税の決定を行うに伴い、国税通則法六六条一項一号に基づき、各月分の物品税について(二)の物品税の決定により新たに納付すべき各月分の税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を賦課する請求の原因3の(一)の無申告加算税賦課決定をしたのであって、右無申告加算税賦課決定も適法である。

4  (被告ら)

(一)(1) 物品税については、租税法律主義の要請から課税物件掲名主義が採用され、その課税範囲は物品税法に掲名列挙された物品に限られていたところ、法旧別表一一号の5は「電気ギター、ハモンドオルガン、クラビオリンその他の電気楽器」を、法別表一一号の5は「電気ギターその他の電気楽器及び電子オルガンその他の電子楽器並びに楽音発生用電気音源機及び電子楽器用又は楽音発生用電気音源機用の演奏用操作機」を、それぞれ、製造場からの移出の際に課税され、その製造者を納税義務者とする(同法三条二項)第二種の物品に区分し、課税物品として掲げていた。

(2) しかして、法旧別表一一号の5の「電気楽器」とは、電気的作用を利用して演奏する楽器をいうものであり、弦若くはリード等の振動又は歯車の回転等の機械的運動を電気信号に変換し、これを増幅してスピーカーから音波を発する方式のいわば狭義の電気楽器と、弦の振動、歯車の回転等の機械的な可動部分はなく、電子回路により電気信号を作り出し、これを増幅してスピーカーから音波を発する方式の電子楽器とに分類することができた。他方、昭和五九年法律第一五号により法旧別表一一号の5を改正して、昭和五九年四月一三日に施行された法別表一一号の5は、従前の電気楽器のほかに楽音発生用電気音源機等の二物品を新たに課税対象としたほか、従前、電気楽器のうちに電子楽器を含むものとしていたことを改め、電子楽器を電気楽器から分離させ、独立の楽器概念として、課税物品として掲げたものである。

(二) 詩吟コンダクター、邦楽コンダクター及び邦楽音階トレーナー(以下、これらを総称して「本件物品」という。)のそれぞれの形状等は次のとおりである。

(1) 詩吟コンダクター

表面は、キーボード、ダイヤルボード及びスピーカーの三部分からなるところ、キーボードには、ピアノでいえば鍵盤に相当する一二個のキーがあって、当該キーには詩吟の音階及び西洋音楽の音階が並列表示されており、ダイヤルボードには、詩吟コンダクターの音の高低を歌う人の声の高低に合わせるためのピッチコントロール及びスピーカーから出る音量を調節し、電源スイッチを兼ねるボリュームコントロールがあり、側面にはイヤホーン用の端子及びアダプター用の端子があり、また、裏面には表面のキーを押して離してもすぐに音が消えず、徐々に消えていく効果を発生させる余韻効果装置及び電池ボックスがある(別紙図面一参照)。

(2) 邦楽コンダクター

詩吟コンダクターとほぼ同様であるが、キーが一五個であること及びそれを押すことによって一オクターブ下の音階に切り替えることができるオクターブキー一個をキーボードの部分に有していることが詩吟コンダクターと異なる(別紙図面二参照)。

(3) 邦楽音階トレーナー

表面には、ピアノの鍵盤に相当する四〇個のキー(当該キーには西洋音楽の音階が表示されている。)、邦楽コンダクターのオクターブキーと同じ機能を有するオクターブキー一個、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターのピッチコントロールと同じ機能を有するピッチコントロール並びにスピーカーがあり、側面には、電源スイッチと鍵盤演奏ができるコンダクター機能及びキーを押した指を離しても音が鳴り続けるメロディー調子笛機能からなる機能スイッチ、ボリュームダイヤル、ピッチコントロールで設定した基準音を確認する調子笛スイッチ並びにイヤホーン用の端子があり、裏面には電池ボックスがある。

邦楽音階トレーナーは、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターと比較すると、小型でやや形状を異にしているが、機能的にはほぼ同様である(別紙図面三参照)。

(三) 本件物品は、いずれも電気的作用を利用して音を発するものであるが、その音源の発生方法が弦の振動や歯車の回転等の機械的な可動部分によるものではなく、一定の音階に従って配列されたキーを押すことによって、電子回路及び水晶発振装置が作動し、これにより作られた電気信号を増幅してスピーカーから音波を発するものであり、ピッチコントロール、ボリュームコントロール等の各ダイヤルにより音の高さ、音量等を調節し、いずれもキーを連続操作することによって音楽的旋律を発生させて楽曲を演奏するものである。そして、本件物品は、主として、詩吟、民謡等の邦楽の曲を演奏するために用いられるものであるが、歌謡曲、軍歌、童謡等の曲も演奏することができ、幅広い汎用性を有している。

(四) ある物品が物品税法上の「楽器」に該当するか否かは、一般社会通念として十分定着した楽器の概念に照らし、当該物品がその構造、機能及び用途からみてこれに該当するかどうかを客観的に判断すべきものである。しかして、一般に楽器とは、音楽を演奏することができる器具と解されているところ、(二)及び(三)の本件物品の構造、機能、用途等の客観的事実に照らせば、本件物品が音楽を演奏することができる器具であることは明らかであるから、本件物品は楽器と解すべきものである。

(五) 原告代表者は、五音音階を主体とする邦楽の演奏をしやすくするために、五音音階を主体に配列した鍵盤を有し、異なる音階のうち、邦楽の愛好者が精通している関係にある音階を上下に組み合わせたことを特徴とする「鍵盤楽器」について特許出願をしているところ、本件物品は、右特許出願に係る基本構想に基づいて製作されたものと認められること、原告が本件物品について製作したパンフレット、チラシ及びカタログ類並びに取扱説明書において、随所に本件物品が楽器であり、演奏することができるものである旨を記述していることからも本件物品が楽器であることは明白である。

(六) したがって、本件物品は、昭和五九年法律第一五号の施行期日の前日である同年四月一二日以前の移出分については法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」に、同年四月一三日以降の移出分については法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に該当するものである。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1の(一)のうち、原告が昭和五六年六月から同年一二月にかけて詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターを東京都立川市内の製造場で製造して移出したことは認め、その余は争う。

(二) 同(二)のうち、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターが法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」に該当するとすれば、原告が右製造場で製造して、昭和五六年六月、同年七月、同年九月、同年一〇月及び同年一二月に移出した詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターの右各月分の物品税の課税標準額が別表一の課税標準額欄記載のとおりであること、原告が物品税納税申告書を被告立川税務署長に提出しなかったことは認め、その余は争う。

(三) 同(三)は争う。

2(一)  同2の(一)のうち、原告が昭和五六年一一月から昭和五七年一〇月にかけて詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターを、静岡県浜北市内の製造場で製造して移出したことは認め、その余は争う。

(二) 同(二)のうち、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターが法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」に該当するとすれば、原告が右製造場で製造して昭和五六年一一月、同年一二月及び昭和五七年一〇月に移出した詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターの右各月分の物品税の課税標準額が別表二の課税標準額欄記載のとおりであること、原告が物品税納税申告書を浜松税務署長に提出しなかったことは認め、その余は争う。

(三) 同(三)は争う。

3(一)  同3の(一)のうち、原告が昭和五七年二月から昭和五九年五月にかけて本件物品を群馬県佐波郡境町内の製造場で製造して移出したことは認め、その余は争う。

(二) 同(二)のうち、本件物品が法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」又は法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に該当するとすれば、原告が右製造場で製造して、昭和五七年二月ないし一一月、昭和五八年一月、同年四月ないし一二月及び昭和五九年一月ないし五月の各月に移出した本件物品の右各月分の物品税の課税標準額が別表三の課税標準額欄記載のとおりであること、原告が物品税納税申告書を被告伊勢崎税務署長に提出しなかったことは認め、その余は争う。

(三) 同(三)は争う。

4(一)  同4の(一)は認める。

(二) 同(二)は認める。

(三) 同(三)のうち、本件物品の音源の発生方法は認め、その余は否認する。

(四) 同(四)は否認する。

(五) 同(五)のうち、原告代表者が主張の特許出願をしていること並びに原告が本件物品について製作したカタログ類及び使用説明書等に、本件物品を楽器として、又は、演奏することができるものとして記載している部分があることは認め、その余は否認する。

(六) 同(六)は争う。

五  原告の反論及び再抗弁

1  以下のとおり、本件物品は、法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」又は法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に該当するものではない。

(一) 本件物品は、詩吟の節の正しい音程を研修する目的のために特に製作された器具である。ただし、邦楽音階トレーナーは、右の目的のほかに邦楽の音階の研修をする目的をも併せ持つものである。

(1)ア 詩吟は、漢詩を一定の節で朗吟するもので、吟詠とも称され、江戸時代に始まったものとされているが、明治に至り、剣舞と合わせることから起こった系統と琵琶歌の中に挿入されてその影響を受けた系統とが残り、現在はおよそ五〇〇〇の流派に分かれて約四〇〇万人以上の愛好者がいるといわれており、その多くは、昭和四三年に創立された財団法人日本吟剣詩舞振興会に参加している。

イ 詩吟は、通常は無伴奏で立った姿勢で独唱するものであり、拍子はなく、節(旋律)や音階の表示(音記号)も流派によって異なり、統一されていない。音と音とのへだたり(音程)も流派ごとに異なっていて、西洋音楽とも異なるはずであるが、現在までにその正確な分析研究はされていない。もっとも、詩吟を習得する際には指導者の口うつしで習うのが通常で、西洋音楽の音階を習うようなことはなく、それが意識されることもない。詩吟の基準音を「宮音」といい、西洋音楽の「ミ」の音に相当するが、これが音名のどの高さになるかは、吟者の声の高さによって異なり、吟者が自身の宮音をいかにして掴むかが、詩吟の難しいところである。

ウ 日本において音楽とは、文部省の定めた学習指導要領に基づく小学校から高等学校までの音楽教育が西洋音楽の体系によってきた影響で、狭く西洋音楽を意味し、邦楽は含まれていないが、詩吟は、その歴史の新しさ、旋律の乏しさ及び不安定さ等の要素もあって、邦楽中にも含まれず、著作権法でも音楽としての保護が与えられていない。

(2)ア 右のとおり、吟者によって詩吟の基準音である宮音が異なるため、詩吟を習得するためには、吟者が各自の宮音及び宮音を中心とした詩吟の節の正しい音程を客観的な音で研修する必要がある。しかるに、詩吟は無伴奏が通常であるため客観的な音を出す器具がなく、ピアノ、尺八、三味線等で代用されてきたが、これらは種類の異なる音楽のための楽器であり、詩吟の音階とは必ずしも一致せず、またかかる楽器をすべての者が操作できるわけでもないので、詩吟の音階に沿ったその節の正しい音程を研修することのできる簡便な器具が望まれていたところ、財団法人日本吟剣詩舞振興会の要望により、原告が企画研究して詩吟の音程研修のための器具として開発したのが詩吟コンダクターである。そして、詩吟コンダクターの作成後に詩吟の各流派に対応させるためにキーを多少増やして作成したのが邦楽コンダクターであり、さらに、詩吟をベースとして、邦楽の知識がない者であっても、目と耳で邦楽を理解することができるように作成したのが邦楽音階トレーナーである。

イ 本件物品は、五音音階を主体にキーが配列されており、また、邦楽の各流派の階名等に対応した銘柄又はマスクをキーボード上に取り付け、又はこれを取り替えることによって各キーの音を西洋音楽の階名、邦楽の各流派の階名等で個別に確認することができるようになっている。

他方、現代の音楽は西洋音楽を中心とするため、一オクターブを半音間隔で一二に等分する一二平均律で構成されているが、本件物品は、一二平均律を用いておらず、順列も異なり、音数も足りないから、歌謡曲、軍歌、童謡などの多くは、専門家が原曲を編曲して本件物品で演奏できるようにしない限り、そのままでは演奏できない。

(3) 本件物品は、財団法人日本吟剣詩舞振興会の主催する夏期吟道大学や特別研修課程並びに同振興会に加盟する約四七〇〇の流派の詩吟教場において音程研修器具として使用されている。その使用方法は、指導者が本件物品のピッチコントロールを研修者の声の高さに合わせた上で、詩吟の基本節調を確認するためにキーを数個押し、さらに宮音である三のキーを十分な長さで押して研修者に対して宮音を確認させ、課題の詩吟を吟じさせるが、研修者が吟じている間はその伴奏はせず、ただ、時折吟詠を止めて指導者の声や本件物品のキーで詩吟の正しい音程と節調を確認させて、研修者を指導するというものである。なお、研修者は指導者の代わりに自ら本件物品で右の操作を行って、詩吟の研修をすることもあり、また、尺八、三味線、箏などの調律に本件物品が利用されることもある。

(4) 本件物品の販売先は、その九九パーセント以上が詩吟界であり、その他には、声明などと合わせるために、宗教界にも販売されている。

(二) 本件物品は、音楽の演奏を主たる目的として製作されたものではない。

(1) 楽器とは、音楽を演奏する目的のために特に製作された器具をいい、その認定は、当該器具の機能のほか、その目的、形状、用法、用途など一切の事情を総合判断して行うべきものである。

被告らは、音楽を演奏することのできる器具が楽器であると主張するが、可能性からいえば、人為的に音の出せるものはすべて演奏が可能なのであり、その定義が広きに失することは明らかである。

(2) 本件物品の九九パーセント以上の用途を占めている詩吟は、今日において音楽性が認められつつあるものの、前記のとおり、なお、邦楽ないし音楽であるとの認識が一般的であるとはいい難く、また、学習指導要領や著作権法においても音楽としては取り扱われていない。物品税法にいう楽器は同法独自の概念ではなく、一般社会通念に基づく楽器の定義によって判断されるべき事柄であるところ、学校教育が音楽及び楽器の概念を国民に学習させ、著作権法が法的側面における音楽の範囲を明確にして、両者相まって日本における楽器の一般社会通念を定着させてきたことは明らかであるから、かかる学校教育や著作権法上の取扱いを無視して物品税法上の楽器の定義を求めることはできない。したがって、詩吟のための器具である本件物品は、楽器すなわち音楽を演奏するために特に製作された器具であるとはいえないのである(なお、邦楽音階トレーナーは、詩吟のほかに邦楽の音階の研修、邦楽器の調律等の副次的な製作目的ももつが、その用途はほとんどが詩吟のためであるから、邦楽のためという副次的な目的を考慮すべきではない。)。

仮に、詩吟が邦楽に含まれるとしても、詩吟は、詩の文字を声に出して表現するもので、吟者の独唱を本質とする声楽であり、本件物品によって詩吟を演奏することはできないのであるから、本件物品が楽器であるということにはならない。

(3)ア また、本件物品は、研修のための器具であって、演奏のための器具ではない。

演奏とは、音に対する人間の美的感情を満たすために、一定の音を人為的に操作して、鑑賞の対象とするものである。そして、楽器には、それぞれ独特の音色があり、それが鑑賞の対象となるものであるが、本件物品は、一定の音階が出せるものの、一度に一つの音しか出せず、音色も単調な機械音であり、鑑賞の対象となるようなものではない。

他方、音楽の研修とは、鑑賞の対象となるべき音楽がいかなる音の配合によって成されるかについて、必要な知識を得、技能を身につけるための特別な学習や実習をすることであり、それは音楽以前の、その前提となる行為である。本件物品は、前記のとおり、詩吟の音階の関係を研修し、あるいは邦楽器の調律などをするための器具であって、すなわち、研修のための器具である。

したがって、本件物品は、楽器、すなわち音楽を演奏する目的のために特に製作された器具とはいえないのである。

後記六(原告の反論及び再抗弁に対する被告らの認否及び再反論)の4の(三)の(1)のとおり、被告らは、演奏を、楽曲を音にして鳴り響かす行為であると定義し、それが鑑賞の対象となるかどうかは、演奏といえるかどうかとは別個の問題であると主張する。しかし、再生芸術(芸術作品の創作と享受との関係において、創作されたものがそのままの形では享受されにくく、創作と享受とを媒介する行為が必要であるような種類の芸術)である音楽において、演奏とは、創作(作曲)と享受(鑑賞)とを媒介する行為であって、演奏と鑑賞とは切り離せない関係にある。演奏とは、その作品の芸術性を正当に再現することにあり、単に楽曲を弾き、音を出すだけのものではないのである。

イ 音楽の演奏と研修との関係について、さらにつけ加えると、例えば、ピアノは、音楽の演奏にも用いられるし、演奏するための練習行為、すなわち音楽の研修にも用いられるが、ピアノには、既にこれが楽器であるという社会通念が定着しているために、たとえ、専ら練習用に用いられるとしても、楽器として認識されるのである。しかし、本件物品のような新しく製作された器具には、定着した社会通念が存在しないから、その使用目的が演奏用であるか研修用であるかという区別から、楽器であるか否かを判断すべきものである。このことは、プロジェクトーンの例を見ても明らかである。すなわち、プロジェクトーンは、電子オルガンと同様に音源発振回路の作動を基にして音を発振するのに加え、楽譜をスクリーンに映写して、視覚と聴覚の双方から音楽を研修する器具であるが、機能的には演奏も可能であり、研修用と演奏用とが両立し得るものであるけれども、音楽教育のための教具、すなわち研修用器具と認められ、物品税法上、電子楽器に該当しないものとして取り扱われているものであって、物品税法上の楽器の判断が、単に楽曲が弾けるか否かではなく、使用目的が重要な基準となることを示すものである。

(三)(1) 被告らは、本件物品が原告代表者の特許出願に係る鍵盤楽器の基本構想に基づいて製作されたものである旨主張するが、原告代表者は、鍵盤楽器と音楽教習器具との両者にまたがり、かつ、鍵盤を五音音階を主体に配列するという構想(ソフトウェア)について特許出願しているのであって、これを応用したハードウェアも、ピアノの鍵盤のこともあれば、音楽教習器具の場合もあり、本件物品が右特許出願に係るソフトウェアを応用したハードウェアであるからといって、直ちにこれを楽器とは断定できず、その具体的な性状、機能、使用方法等を総合して判断すべきものである。

(2) また、被告らは、原告が製作したカタログ類及び使用説明書等において、本件物品が楽器であり、演奏することができるものである旨の記述をしているとも主張するが、原告は、本件物品中機能的に最も優れた邦楽音階トレーナーの演奏曲例集表紙において「邦楽音階トレーナーは、邦楽を上手に演奏していただくための楽器ではありません。日頃から親しみ慣れた邦楽が、どのような音階のしくみによって作られているのか、七〇〇曲に及ぶ演奏曲例集を通じて、やさしく体験していただくための教材です。」と説明して、本件物品が楽器でないことを明らかにしている。

のみならず、本件物品が発売された昭和五三年当時、音楽関係者の多くは、詩吟を民謡とともに「大衆芸能」として、音楽とは認めず、他方、詩吟関係者の一部はこれに反発して、却って詩吟を音楽とは一線を画するものであるようにいうといった状況があり、このような音楽界、詩吟界の状況の中で、営利企業としての原告が、前例のない詩吟の節の正しい音程を理解させるための研修器具である本件物品を販売普及させるためには、詩吟の音楽性を問い直し、啓蒙する作業から始めなければならず、そのために、詩吟を音楽とし、本件物品の操作を通じて行う詩吟の研修を演奏とするような理解されやすく受け入れられやすい表現を用い、かつ、本件物品に親しませるために馴染みの深い曲例を付けて、宣伝に努めなければならなかったのであり、被告ら主張のカタログ類、使用説明書の表現もこのような普及宣伝の一環として用いられたものであって、音楽や演奏の本質を厳密に定義付けてこれらのカタログ類及び使用説明書を作成したものではない。

本件物品のカタログ類及び使用説明書は、右のような音楽界、詩吟界の状況の下での原告の主観的な表現であり、このような製造者の主観的な表現をもって本件物品が物品税法上の課税物件に該当するか否かを判断すべきものではない。

2  仮に本件物品が法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」又は法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に該当するものとしても、物品税法九条及び物品税法施行令(以下「施行令」という。)六条の非課税規定の類進適用により、本件物品は非課税と解すべきである。

すなわち、物品税法九条に基づく施行令六条、別表第一は、同表の品目欄ごとに課税最低限の金額及び非課税物品を定めているところ、本件物品の該当する同表の第一一号の5の品目には非課税物品の定めがないので、本件物品は形式的には非課税物品には当たらない。しかしながら、同法九条は、比較的安価な物品又は特殊な性状機能構造を有する物品につき、物品税の消費税としての本来の性格及び沿革から、課税を相当としないものを物品税の対象から除外しようとする原理を明らかにし、かつ、経済情勢の変化に弾力的に対応するため、この原理を補充し、具体化することを政令に委任するものであるから、右委任を受けた施行令六条、別表第一の非課税物品の定めによって、同法九条の原理が具体化し得るものであれば、個々の品目欄ごとの非課税物品に拘泥せず、他の品目欄の非課税物品の定めを類進適用して非課税物品を認めても同法九条の趣旨に反せず、却ってこれに適うものである。また、このような非課税物品の類進適用は、国民の財産権の侵害を伴うものではなく、かつ、類進の限度を施行令別表第一のうちの同一の号(類別欄)の範囲内に限定すれば、税務官庁の恣意的な不徴税の弊害は生じないから、租税法律主義に反するものでもない。

しかして、本件物品は、仮にこれが楽器であるとしても、1の(一)で述べた本件物品の製作目的、形状、用途に照らして、邦楽器に当たるものであるところ、施行令別表第一の第一一号の1、3、4には、三弦及び箏を除く種々の邦楽器が非課税物品として掲げられているのであるから、これら非課税物品の定めを類進適用して、本件物品も非課税物品であるものと解すべきである。

3  (再抗弁)

仮に、本件物品が物品税の課税物品であるとしても、次のとおり、原告には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるから、本件各賦課決定は違法である。

(一) 国税通則法六六条一項所定の正当な理由とは、無申告加算税が税法上の義務の不履行に対する一種の行政上の制裁であることに鑑み、このような制裁を課すことが不当あるいは過酷とされるような事情をいうものであり、期限内申告書の不提出が単に納税義務者の法律の不知あるいは錯誤に基づくというのみでは、これに当たらないが、必ずしも納税義務者の全くの無過失を要するものではなく、納税義務者に過失があったとしても、諸般の事情を考慮してその者だけに期限内申告書不提出の責めを帰することが妥当でないような事情のある場合をも含むと解すべきである。

(二) 原告は、音楽学の理論から、詩吟の正しい音程の練習と音楽の演奏とが異なるものと考えていたし、また、詩吟が音楽であるという認識が一般的であるとはいい難い実情であることから、詩吟のための本件物品を楽器と認識していなかった。他方、原告が本件物品の製作を依頼している科学技研株式会社は電子オルガン等の楽器も製作しているが、同社から本件物品が物品税の課税物品であるという指摘はなかったし、原告が会社の経理から税務申告までを依頼している税理士や四、五年おきに原告に対する法人税調査を実施していた管轄税務署の係官からも、特に、昭和五七年には板橋税務署の係官が原告から本件物品の説明を受け、一台持ち帰ったことがあったにもかかわらず、本件各決定処分及び本件各賦課決定があるまで、何ら物品税についての指導を受けなかった。

右のような事情の下では、原告ひとりが自己の特異な見解により本件物品を物品税の課税物件でないと考えていたのではなく、本件物品の製作会社、税理士、税務署の係官までもが同様に物品税の申告が必要であるとは考えていなかったというべきであるから、原告のみに期限内申告書不提出の責めを帰するのは妥当でない事情が存するというべきである。

六  原告の反論及び再抗弁に対する被告らの認否及び再反論

1(一)(1) 原告の反論及び再抗弁1の(一)の柱書きの主張のうち、本件物品が詩吟の節の正しい音程を研修する目的のために特に製作された器具であることは否認し、その余は不知。

(2) 同(1)のア及びイは不知。同ウは否認する。

(3)ア 同(2)のアは不知。

イ  同イのうち、本件物品が五音音階を主体にキーが配列されていることは認める。歌謡曲、軍歌、童謡などの多くは、そのままでは本件物品で演奏できないことは否認する。その余は不知。

(4) 同(3)及び(4)は不知。

(二)(1) 同(二)の柱書き及び同(1)の主張は争う。

(2) 同(2)は争う。

(3) 同(3)のアは否認し、同イのうち、プロジェクトーンが物品税法上楽器に該当しないものとして取り扱われていることは認め、その余は否認する。

(三) 同(三)は争う。

2 同2は争う。

3 同3は争う。

4 (被告らの再反論)

(一) 原告は、詩吟は音楽ではないから、詩吟のための器具である本件物品は音楽ではないと主張するが、詩吟は、これを吟ずるものが一定の施律により音声を発することによって芸術的欲求を満たすものであり、この施律部分はとりもなおさず詩吟の曲なのであって他の邦楽の曲と同様に音楽にほかならず、現に誰しもが音楽と認識しているものである。著作権法において詩吟を音楽として取り扱うかどうかは同法固有の問題であって、本件とは全く次元を異にする事柄であるし、学習指導要領における詩吟の取り扱いについても同様である。

のみならず、本件物品は、詩吟の曲はいうに及ばず、民謡等の他の邦楽の曲及び歌謡曲等様々な曲を演奏することができる構造、機能、用途を有するものであって、これを楽器と評価すべきことは明らかである。

(二) 原告は、楽器を、音楽を演奏する目的のために特に製作された器具であると定義し、音楽を演奏することのできる器具が楽器であるとする被告らの考えを広きに失すると主張するが、仮に原告の定義に従うとすれば、当該物品が音楽を演奏する目的のために特に製作されたか否かについて、個別的にそれが製作された際の事情、殊に製作者の主観的意図まで考慮しなければ認定できないこととなり、極めて不明確なものとなるのみならず、発生史的にみても、現実の使用形態からみても多種多様なものが入り込まざるを得ない楽器について、唯一可能な概念規定は、これを音楽を演奏することができる器具として捉えることであり、これが楽器学における楽器の概念にも、日常用語における楽器の概念にも最も即しており、社会通念として定着した楽器概念である。

(三)(1) 原告は、演奏を、音に対する人間の美的感情を満たすために、一定の音を人為的に操作して鑑賞の対象とするものであると定義した上、本件物品の音が鑑賞の対象となるようなものでないと主張する。

しかしながら、演奏とは、楽曲を音にして鳴り響かす行為であると一般に解されているところであり、演奏と鑑賞との間に有機的な関連があることは否定できないものの、演奏者の演奏技術の程度によってそれが鑑賞の対象となるかどうかということと、演奏といえるかどうかということとは別個の問題である。のみならず、現実には、本件物品は、詩吟の伴奏、尺八、箏との合奏用としても用いることができ、さらには本件物品を二台以上使用して美しいハーモニーを奏でたりすることもできるのであって、本件物品が鑑賞の対象となるような音を発するものでないという原告の主張は事実に反する。

(2) また、原告は、演奏と研修とを対置した上、本件物品は詩吟の正しい音階を研修するために製作された器具であるとして、本件物品が楽器ではないと主張する。

しかしながら、そもそもある物品が楽器であるかどうかは、一般社会通念として定着した楽器の概念に照らして、当該物品がその構造、機能及び用途等からみてこれに該当するかどうかを客観的に判断すべきであって、その製造者の主観的製造目的及び用途によって判断すべきものではない。

のみならず、研修のための器具であることと楽器であることとは両立するものである。ピアノを例にとれば、原告の主張のように、ピアノが楽器であるという社会通念が定着しているから、たとえ研修に専ら使用しても楽器であるというものではなく、ピアノが音楽を演奏することのできる器具であるから一般社会通念としても楽器として認識されるものであるし、また、それ故に研修に専ら使用しても依然として楽器と認識されるものなのである。したがって、本件物品が研修のための器具であるから楽器ではないとする立論は失当である。本件物品については、これを繰り返し演奏することによって詩吟の正しい音階や旋律の研修に供されるものということができる。

さらに、右(1)のとおり、本件物品は、現実には、詩吟の伴奏用、尺八、箏との合奏用としての用途もあるのであるから、本件物品が楽器であることは明らかである。

(3) なお、右の点に関し、原告は、プロジェクトーンが研修用器具と認められ、電子楽器に該当しないものとして取り扱われているから、楽器であるかどうかの判断が単に楽曲が弾けるか否かではなく、使用目的が重要な基準となるべきである旨主張する。

しかしながら、プロジェクトーンは、小学校の学級などで多数を対象に教師が専ら使用し、オーバーヘッドプロジェクターを用いてスクリーン上に投影された楽譜と鍵盤との位置関係、指使いという音楽教育の基礎的な事柄を目と耳とで同時に学ばせるものであるが、その構造上及び機能上の制約により、通常の音楽のリズムとテンポとに従って操作することは難しい上、ごく短い曲を別とすれば、全曲を通して演奏することも不可能であり、到底音楽を演奏することのできるものとは認められず、かつ、オーバーヘッドプロジェクターと一体として使用して初めてその機能、用途を十分に果たすことができるものであるから、教育用機器であり、楽器として取り扱うことは妥当でないものである。

したがって、物品税の課税に当たってのプロジェクトーンの取扱いは、何ら原告の主張を支持するものではない。

(四) 原告は、本件物品が仮に楽器であるとしても、邦楽器に当たるものであるところ、施行令別表第一の第一一号の1、3、4には、三弦及び箏を除く種々の邦楽器が非課税物品として掲げられているのであるから、これら非課税物品の定めを類推適用して、本件物品も非課税物品であるものと解すべきである旨主張する。

しかしながら、物品税法九条は、「特殊な性状、構造若しくは機能を有することにより、一般消費者の生活及び産業経済に及ぼす影響を考慮して物品税を課さないことが適当であると認められるものとして政令で定めるものについては、物品税を課さない」と規定し、これを受けて施行令六条二号が「特殊な性状、構造若しくは機能を有することに基づき物品税を課さないこととされる物品」として、施行令別表第一の非課税物品を掲げ、そのうち別表第一の第一一号(楽器及びその付属品)の1は弦楽器のうち三弦及び箏を除く和楽器を、同2はオルガンのうち、ストップ装置を有しないで六一鍵以下のものを、同3は尺八、笙、ひちりき、能管、明笛その他の和笛を、同4は①四九以上六一以下の鍵を有するもの、②和太鼓、鼓及び鉦鼓をそれぞれ非課税物品と定めているが、本件物品が該当する同5については、非課税物品の定めをしていないところ、右のような規定の態様及び内容に照らして施行令別表第一の非課税物品の定めが限定列挙であることは明らかである。のみならず、抗弁4の(三)のとおり、本件物品は表面に配列されたキーを押すことによって、電子回路及び水晶発振装置が作動し、これにより作られた電気信号を増幅してスピーカーから音波を発するものであり、キーを連続操作することによって楽曲を演奏するという構造、機能を有するものであって、施行令別表第一の第一一号の1、3及び4に掲げられた和楽器などの非課税物品とは、その構造及び機能を本質的に異にするものである。したがって、原告主張の類推適用の余地はないものである。

(五) 原告は、本件物品を楽器と認識していなかったし、本件物品の製作を依頼している科学技研株式会社、税理士あるいは税務署の係官から本件物品が物品税の課税物品であるという指摘や指導を受けなかったから、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると主張するけれども、原告は、本件物品が楽器であることの認識に欠けていたのではなく、その代表者の独自の楽器観を拠り所にこれが楽器であると認定されることを頑なに拒否し、自己の見解に固執して申告しなかったものに過ぎず、また、その代表者が楽器及び物品税について相当な知識を有していたのに、本件物品が課税物品であるか否かにつき権限ある税務官署に問い合わせるなどの慎重な調査をしなかったのであるから、期限内申告書を提出しなかったことにつき正当な理由があるものとは到底認めることができない。

第三証拠《省略》

理由

一1  請求の原因1の事実及び抗弁1の(一)のうち、原告が昭和五六年六月から同年一二月にかけて詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターを東京都立川市内の製造場で製造して移出したことは、原告と被告立川税務署長との間に争いがない。

2  請求の原因2の事実及び抗弁2の(一)のうち、原告が昭和五六年一一月から昭和五七年一〇月にかけて詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターを、静岡県浜北市内の製造場で製造して移出したことは、原告と被告浜松東税務署長との間に争いがない。

3  請求の原因3の事実及び抗弁3の(一)のうち、原告が昭和五七年二月から昭和五九年五月にかけて本件物品を群馬県佐波郡境町内の製造場で製造して移出したことは、原告と被告伊勢崎税務署長との間に争いがない。

二  被告らは、本件物品が法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」に(群馬県佐波郡境町内の製造場で製造して昭和五九年四月一三日以降に移出した分については、法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に)該当する旨主張するので、以下、右の点について判断する。

1  物品税法は、その別表(課税物品表)に掲げる物品について物品税を課するとして、課税物件を列挙し(一条)、かつ、その課税物件を、小売の際に販売業者を納税義務者として課税する第一種の物品とその製造に係る製造場からの移出の際に製造者を納税義務者として課税する第二種の物品とに分類していた(三条一項、二項)。そして、法旧別表一一号の5は「電気ギター、ハモンドオルガン、クラビオリンその他の電気楽器」を第二種の物品中の「楽器及びその附属品」の一項目として掲げていたところ、右の「電気楽器」とは電気的作用を利用して演奏する楽器を意味し、そのうちには、弦若しくはリード等の振動又は歯車の回転等の機械的運動を電気信号に変換し、これを増幅してスピーカーから音波を発する方式のいわば狭義の電気楽器のほかに、機械的な可動部分はなく、電子回路により電気信号を作り出し、これを増幅してスピーカーから音波を発する方式の電子楽器(電気発振方式の楽器)をも含むものとされていた(昭和五九年政令第一〇二号による改正前の施行令別表第一の第一一号の5参照)。その後、法旧別表一一号の5は、昭和五九年法律第一五号により改正されて法別表一一号の5となり、これは、昭和五九年四月一三日に施行されたが、この法別表一一号の5は、「電気ギターその他電気楽器及び電子オルガンその他の電子楽器並びに楽音発生用電気音源機及び電子楽器用又は楽音発生用電気音源機用の演奏用操作機」を第二種の物品として掲げ、電子楽器を電気楽器から分離して独立の楽器概念とすることとしていた。

2  しかして、抗弁4の(三)のうち、本件物品がいずれも電気的作用を利用して音を発するもので、その音源の発生方法が弦の振動や歯車の回転等の機械的な可動部分によるものではなく、一定の音階に従って配列されたキーを押すことによって、電子回路及び水晶発振装置が作動し、これにより作られた電気信号を増幅してスピーカーから音波を発するものであることは、当事者間に争いがないところ、右事実によれば、本件物品は、1に述べた電子楽器の音源の発生方法と同一の方法により音を発するものであるから、これが物品税法上の楽器の概念に照らして、楽器に該当する物品であるものとすれば、法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」に(昭和五九年四月一三日以降に移出した分については、法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に)当たるものというべきである。

そして、物品税法は、施行令等関係法令には、楽器一般について、その概念を定めた規定は存在せず、このことと物品税法が課税物件として別表に掲げている他の物品についても同様にその概念を定めた規定がないことなどに鑑みれば、ある物品が物品税法上の楽器に該当するか否かは、一般社会通念上の楽器の概念に照らして、当該物品がこれに該当するかどうかを客観的に判断すべきものと解するを相当とする。

3  そこで、以下、本件物品が一般社会通念上、楽器に該当するか否かについて検討する。

(一)  本件物品の構造及び機能について

(1) 詩吟コンダクター

ア 抗弁4の(二)の(1)の事実は当事者間に争いがない。

イ 右争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

標準仕様の詩吟コンダクターは、そのキーボード上に、上段に二個の、下段に一〇個の鍵盤に相当するキーが配置され、これを押すことによって、下段のキーにおいては、低い音から順に、水(ミ)、乙(ラ)、一(シ)、二(ド)、三(ミ)、三'(ファ)、五(ラ)、六(シ)、七(ド)、八(ミ)の、上段のキーにおいては、同様に二'(レ)、四(#ファ)の、それぞれ詩吟の節まわしを形づくる音程の音を発することができ(なお、詩吟の音記号は各流派によって異なっているところ、右の水、乙、一、二等の音記号は静凰流のそれによったものであり、また、括弧内のミ、ラ、シ等は当該音が相当する西洋音階の表示である。)、また、ピッチコントロールダイヤルを回すことによって、同一の音程のまま全体の音の高さを一二段階に上下させることや、余韻効果発生装置を調節することによって、キーを押して離しても音がすぐに消えずに徐々に消えていく余韻効果をもたせることができる。そして、以上のキーやダイヤル等を操作することによって、各人の声に合わせた音の高さで詩吟の節まわしを奏することができるほか、詩吟の前奏をし、あるいは詩吟の節まわしそのものからは離れて、明るさや憂いなどの表情を付けた上、節まわしに調和する伴奏をすることもでき、さらには、詩吟の音階と共通する音階を有する曲を演奏することもできる。

(2) 邦楽コンダクター

ア 抗弁4の(二)の(2)の事実は当事者間に争いがない。

イ 右争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

標準仕様の邦楽コンダクターは、そのキーボード上に、上段に五個の鍵盤に相当するキー及び一個のオクターブキーが、下段に一〇個の鍵盤に相当するキーが配置され、このうちの鍵盤に相当するキーを押すことによって、下段のキーにおいては、詩吟コンダクターと同じく、低い音から順に、水(ミ)、乙(ラ)、一(シ)、二(ド)、三(ミ)、三'(ファ)、五(ラ)、六(シ)、七(ド)、八(ミ)の、上段のキーにおいては、同様に(ファ)、二'(レ)、四(#ファ)、(ソ)、(レ)の、それぞれ詩吟の節まわしを形づくる音程の音を発することができ(水、乙、一、二等の音記号が静凰流のそれによったものであり、また、括弧内のミ、ラ、シ等が、当該音が相当する西洋音階の表示であることは、詩吟コンダクターと同様である。また、上段の(ファ)、(ソ)、(レ)の各キーには、静凰流に当該キーの音が存在しないために、静凰流の音記号が付されていない。)、また、詩吟コンダクターと同様に、本数切替ツマミ(ピッチコントロールダイヤル)を回すことによって、同一の音程のまま全体の音の高さを一二段階に上下させることや、余韻効果発生装置を調節することによって余韻効果をもたせることができるほか、オクターブキーを押すことによって全体の音程を一オクターブ低くすることができる。すなわち、標準仕様の邦楽コンダクターは、詩吟コンダクターに、(ファ)、(ソ)、(レ)の音を発する三個のキーを追加し、オクターブキーを付加したものであって、機能的には詩吟コンダクターと概ね同様であるが、ほぼ全部の詩吟の流派に対応し、また、詩吟の音階と同様の音階の唱歌、俗曲、軍歌、歌謡曲などの譜を邦楽コンダクターの音記号に置き換えてこれらを演奏することもできるものである。

(3) 邦楽音階トレーナー

ア 抗弁4の(二)の(3)の事実は当事者間に争いがない。

イ 右争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

標準仕様の邦楽音階トレーナーは、そのキーボード上に四段に分かれてキーが配置されているところ、このうち、二段目及び三段目には各一四個宛の鍵盤に相当するキーがあり、二段目の一四個のキーは、これを押すと、低い方から順に、西洋音階のソ、ラ、ド、レ、ミ、ソ、ラ、ド、レ、ミ、ソ、ラ、ド、レに相当する音を発することができ、邦楽長音階(ドの音を基準音とするド、レ、ミ、ソ、ラの五音音階で、唱歌、歌謡曲等を構成する。)、尺八音階(ラの音を基準音とするラ、ド、レ、ミ、ソの五音音階で、主に民謡を構成する。)及び邦楽陽音階(レの音を基準音とするレ、ミ、ソ、ラ、ドの五音音階で、わらべ歌、民謡、雅楽等を構成する。)を形づくり、また、三段目の一四個のキーは、これを押すと低い方から順に、西洋音階のシ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ、ファに相当する音を発することができ、邦楽陰音階(ミの音を基準音とするミ、ファ、ラ、シ、ドの五音音階で、主に詩吟、民謡、三曲等を構成する。)及び邦楽短音階(ラの音を基準音とするラ、シ、ド、ミ、ファの五音音階で、歌謡曲を構成する。)を形づくる(邦楽音階トレーナーが五音音階を主体にキーが配列されていることは当事者間に争いがない。)。一段目には、二段目の邦楽長音階にない西洋音階のファ及びシの音を発する鍵盤に相当するキーが、ファは二個、シは三個あって、これと二段目のキーとを併用することにより西洋長音階(ドの音を基準音とするド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シの七音音階)を形づくることができる。また、四段目には、三段目の邦楽短音階にない西洋音階のレ及びソの音を発する鍵盤に相当するキーが、レは三個、ソは二個あるほか、シ♭の音を発する鍵盤に相当するキーが二個あって、これと三段目のキーとを併用することにより西洋短音階(ラの音を基準音とするラ、シ、ド、レ、ミ、ファ、ソの七音音階)を形づくることができる。また、四段目には右のほかオクターブキー一個があり、邦楽コンダクターのそれと同様に、これを押すことによって全体の音程を一オクターブ低くすることができる。キーボードの上方には、ピッチコントロール盤があって、邦楽長音階、邦楽陰音階、尺八音階、邦楽陽音階及び邦楽短音階のそれぞれについていずれも一二段階の基準音(本数)の表示があり、ピッチコントロール盤中央のつまみを左右にスライドさせることにより、同一の音程のまま全体の音の高さを一二段階に上下させることができる。さらに、調子笛スイッチを押すと、ピッチコントロール盤のつまみの位置の本数で基準音を発する。そして、以上のキーやつまみを操作することにより、邦楽長音階、邦楽陰音階、尺八音階、邦楽陽音階及び邦楽短音階並びに西洋長音階及び西洋短音階の旋律を奏することができ、なお、その際に、機能スイッチでメロディー調子笛機能を選択しておくと、キーを押した指を離しても当該キーの音を鳴り続けさせることができる。

なお、静凰流の音記号を表示した詩吟専用マスクが付属しており、これをキーボードに取り付けることにより、詩吟コンダクター又は邦楽コンダクターと同様の方法で使用することが可能となる。

(4) 《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

原告は、本件物品につき、以上の標準仕様品のほか、本件物品の販売先である詩吟の各流派及び詩吟各流派が参加して昭和四三年に結成された財団法人日本吟剣詩舞振興会、三弦、尺八、箏等の各流派並びに仏教各派等の要望に沿って改変を加えた製品をも製造販売している。右改変の内容は、詩吟、三弦、尺八、箏等の各流派あるいは本件物品を詠讃歌と合わせるのに使用する仏教各派の固有の階名(音記号)を表示するために、コンダクターについてはキーボード上の階名の表示された銘板を張り替え、邦楽音階トレーナーについてはキーボード上に階名の表示されたマスクを取り付けることが主であるが、他に、邦楽コンダクターについて、詩吟の流派によっては余韻消しのキーを取り付けること、オクターブキーを取り除くことなどを行い、あるいは、財団法人日本吟剣詩舞振興会の詩吟大会用として前奏及び音程ガイド(大会出場者の朗吟中に音程を確認するため所定の時間ごとに所定の音を発すること)の自動実行装置を付したものなどがある。

(二)  本件物品の用途について

(1) 抗弁4の(五)のうち、原告代表者が、五音音階を主体に配列した鍵盤を有し、異なる音階のうち、邦楽の愛好者が精通している関係にある音階を上下に組み合わせたことを特徴とする「鍵盤楽器」について特許出願をしていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができる。

ア 原告は、昭和四四年に設立され、当初、電子機器等の設計製作及びレコードの製作等を行っていたところ、財団法人日本吟剣詩舞振興会より、主として詩吟の音程に関する研修教育用の器具の製作を要望されたことから、本件物品の開発に取りかかり、昭和五三年に、まず、詩吟コンダクターを完成させて販売した。その後、詩吟コンダクターが詩吟の各流派の音階に完全に対応していないことが判明したことから、キーを増やすことによりその対応を図ったものとして邦楽コンダクターを完成させた。他方、原告代表者は、詩吟コンダクター製作の経験等から、二種の異なる五音音階を主体としてキー配列を組み直すことにより各種邦楽の音階全般を演奏することのできる仕組みを考案し、昭和五九年二月に特許出願に及んだが、右の特許出願に係る基本構想を現実に応用した器具として邦楽音階トレーナーを完成させた。

イ 標準仕様の詩吟コンダクターの取扱説明書は、主として詩吟の音程の研修器具という見地からその使用法を解説しているが、練習曲として、古謡「さくらさくら」や民謡「黒田節」をも取り上げており、詩吟の前奏、伴奏用としての右器具の用い方も解説している。また、原告の作成した総合カタログには、詩吟コンダクターが、上級者の弟子に対する指導用教材としての機能又は初心者の自宅学習用教材としての機能のほか、詩吟の伴奏楽器として、あるいは、箏、尺八との合奏楽器としての機能をも有する旨が記載されている。

ウ 標準仕様の邦楽コンダクターの取扱説明書も、主として詩吟の音程の研修器具という見地からその使用法を解説しているが、練習曲として、詩吟コンダクターと同様、「さくらさくら」や「黒田節」を取り上げているほか、付録として、俗曲、唱歌、軍歌、歌謡曲等の譜も掲載しており、詩吟の前奏用としての右器具の用い方についても解説している。また、原告作成に係る「コンダクター演奏の手引《入門編》」という収録曲のテープが添付された邦楽コンダクター用の演奏曲例集には、「さくらさくら」、「黒田節」、和歌「幾山河」などや、詩吟の前奏例も収録されており、さらに、原告の作成したパンフレットには、邦楽コンダクターについて、「詩吟、和歌、新体詩、民謡、演歌……など何でも演奏できる万能コンダクター」、「いろいろな邦楽も自由自在」など、その用途が詩吟の研修用に限られない旨の記載がある。

エ 標準仕様の邦楽音階トレーナーの取扱説明書は、詩吟を含め、主として五音音階から成る民謡、唱歌、歌謡曲等、様々な分野の曲を邦楽長音階、尺八音階、邦楽陽音階、邦楽陰音階及び邦楽短音階に分類し、各音階の音程の研修及び演奏用の器具として、その使用法を解説し、さらに、演奏曲例集にも、同様に様々な分野の五音音階の曲が右の分類に従って集録されている(ただし、各曲の譜は、その出だしの部分のみが記載されている。)。また、邦楽音階トレーナーの取扱説明書においても、付属の詩吟専用マスクを用いた詩吟の音程の研修について、特に別項を設けて右器具の使用法を解説している。

(2) 以上の各事実及び(一)の事実並びに《証拠省略》を総合すれば、本件物品中、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターは、上級者の弟子に対する詩吟の指導又は研修者による自習の際に、その節まわしの音に相当する音を発することにより詩吟の音程関係を理解させ又はこれを自得し、もって、詩吟の習得に役立たせることをその主たる用途とするものであるが、同時に、詩吟の研修指導から離れ、詩吟を朗吟する際にその前奏や伴奏をすること、さらには、詩吟そのものからも離れて、尺八、箏などの邦楽器と邦楽の合奏をし、あるいは、単独で邦楽を演奏するためにも用いられること、邦楽音階トレーナーも、詩吟の研修指導の用に供することがその主な用途であるが、詩吟のみでなくこれを含めて各種邦楽全般の音階の研修や演奏にも用いられるものであり、その製作に至った経過及び機能からすれば、むしろこの方がその本来の用途であることがそれぞれ認められる。《証拠判断省略》

なお、原告は、本件物品の使用説明書等の表現は普及宣伝の一環として用いられたものであって、音楽や演奏の本質を厳密に定義付けて作成したものではなく、原告の主観的な表現であるとも主張するが、少なくとも本件物品の使用法に関しては、単なる表現の問題を超えた具体性を有するものであるところからすれば、右主張は採用の余地がないものというべきである。

(三)  楽器の概念について

《証拠省略》によれば、楽器とは、楽器学においては、音楽に使用される器具のほか、何らかの目的で音響を出すために作られたものをも含む概念とされているが、一般には、音楽の演奏に用いられる器具とされることもあるし、また、音楽を演奏する目的で製作された器具をいうものとされることもあることが認められるところ、社会通念上の楽器の概念を考える場合においては、右の楽器学における概念が広きに失することは明らかであり、また、音楽の演奏に用いられる器具という概念規定も、一般社会通念としては楽器と認められていない器具が音楽に取り入れられてその演奏の用に供せられるのをしばしば見聞することに鑑みれば、やや厳密性を欠くものといわざるを得ないから、音楽を演奏する目的で製作された器具を楽器というものと解するのが相当である。しかしながら、一般社会通念は、当該物品の客観的な構造、機能、用途等に基づいて形成されるのが通常であるから、音楽を演奏する目的で製作された器具であるかどうかは、その製作者の主観的な製作意図ないし願望を顧慮することなく、当該物品の構造、機能、用途等に基づいて客観的に判定されるべきものといわなければならないし、また、客観的に右のような目的の存在が認められるならば、当該物品が、同時に他の製作目的をも有することが認められるとしても、なお、これを楽器ということを妨げられるものではないというべきである。

(四)  そこで、本件物品について検討する。

(1) 詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターについて

ア 詩吟コンダクターは(一)の(1)のとおりの、また、邦楽コンダクターは(一)の(2)のとおりの構造及び機能を有する器具であり、ともに(二)の(2)のとおりの用途を有するものである。

イ しかして、被告は詩吟を音楽であると主張し、原告はこれを争っている。しかしながら、この点の判断は暫く措くこととし、仮に詩吟、すなわち、漢詩を節をつけて朗吟すること自体が音楽に当たらないという前提に立つとしても、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターは、その構造及び機能上、詩吟の伴奏をすることができ、かつそのような用途を有するものであるところ、右の詩吟の伴奏とは、単に詩吟の朗吟の節まわしそのものをなぞるだけではなく、これと調和させつつ、その詩題、詩情を独自に表現するような旋律を奏でてゆくものをもいうのであるから(このことは一般的な伴奏の概念に照らしても明らかであり、また、前掲乙第二号証もこの概念が前提となっているものと認められる。)、これは音楽の演奏にほかならないものというべきであり、さらに、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターは、詩吟から離れ、尺八、箏などの邦楽器と邦楽の合奏をし、あるいは単独で邦楽を演奏する機能及び用途をも有するところ、これが音楽の演奏に当たることはいうまでもないところである。

ウ そうすると、詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターは、その構造、機能、用途などから、音楽を演奏することを目的として製作された器具であるものと客観的に判定できるものであって、一般社会通念上、楽器に当たるものと解すべきである。

(2) 邦楽音階トレーナーについて

ア 邦楽音階トレーナーは、(一)の(3)のとおりの構造及び機能を有する器具であり、(二)の(2)のとおりの用途を有するものである。

イ しかして、邦楽音階トレーナーは、その構造及び機能上、邦楽の各種音階を奏することができる上、各種邦楽全般の演奏をその用途とするものであって、これが音楽の演奏に当たることは明らかである。

ウ そうすると、邦楽音階トレーナーは、その構造、機能、用途などから、音楽を演奏することを目的として製作された器具であるものと客観的に判定できるものであって、一般社会通念上、楽器に当たるものと解すべきである。

(3)ア 原告は、日本において音楽とは、学習指導要領に基づく音楽教育が西洋音楽の体系によってきた影響で、狭く西洋音楽を意味し、邦楽は含まれていない旨主張するが、邦楽もまた音楽であることは自明のことであって、原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない(《証拠省略》には、原告の主張と同様の表現があるが、これは、日本人が音楽という言葉を西洋音楽に限定して用いることが多いという状況を述べたもので、音楽の本質上、邦楽がこれに含まれないという趣旨でないことはその全体の記述から明らかである。)。

イ また、原告は、演奏とは、音に対する人間の美的感情を満たすために、一定の音を人為的に操作して、鑑賞の対象とするものであるところ、本件物品は、一度に一つの音しか出せず、音色も単調な機械音であり、鑑賞の対象となるようなものではない旨主張する。しかしながら、ある音色が鑑賞の対象となるかどうかの判断は多分に主観的な要素を伴うものであるところ、それにもかかわらず、本件物品の音色が鑑賞の対象となるようなものではないと断定し得る証拠はなく、却って、先に述べたとおり、本件物品が詩吟の伴奏や尺八、箏などの邦楽器と邦楽の合奏に用いられ、あるいは各種邦楽全般の演奏に用いられることと《証拠省略》とを併せ考えれば、本件物品の音色が鑑賞に耐えるものであることを推認し得るものというべきであるから、右主張は失当である。

ウ 原告は、さらに、本件物品が研修のための器具であり、演奏のための器具ではないとして、縷々主張するが、本件物品の製作目的ないし用途が仮に研修にあるとしても、右のように本件物品は、その構造、機能及び用途の上で、研修とは別に、音楽の演奏を行う器具であると認められるのであるから、本件物品の楽器性は否定できず、原告の右主張も失当というべきである。

4  したがって、本件物品は、いずれも法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」に(昭和五九年四月一三日以降に移出した分については、法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に)当たるものというべきである。

三  次に、原告は、本件物品が法旧別表一一号の5の「その他の電気楽器」又は法別表一一号の5の「その他の電子楽器」に該当するものとしても、物品税法九条に基づく施行令六条、別表第一の第一一号の1、3、4により三弦及び箏を除く種々の邦楽器が非課税とされているから、これらの規定の類推適用により、邦楽器である本件物品は非課税と解すべきである旨主張する。

しかしながら、物品税法九条は「特殊な性状、構造若しくは機能を有することにより、一般消費者の生活及び産業経済に及ぼす影響を考慮して物品税を課さないことが適当であると認められるものとして政令で定めるものについては、物品税を課さない」と定め、これを受けて施行令六条が「法第九条に規定する政令で定める物品は、次の各号の区分に応じ、当該各号に掲げる物品とする。」とした上で、同条二号に「特殊な性状、構造若しくは機能を有することに基づき物品税を課さないこととされる物品」として、施行令別表第一の非課税物品を掲げていたものであるところ、右規定によれば、同表の非課税物品が非課税とされるのは、それらが性状、構造若しくは機能の面でそれぞれ非課税とすることを適当とする特殊性を有するという個別的な事情に着目されてのことであり、したがって、これが限定列挙であることは明らかであるから、右規定を類進適用する余地は全くなく、原告の右主張は失当である。

四1  抗弁1の(二)のうち、原告が東京都立川市内の製造場で製造して、昭和五六年六月、同年七月、同年九月、同年一〇月及び同年一二月に移出した詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターの右各月分の物品税の課税標準額が別表一の課税標準額欄記載のとおりであること及び原告が物品税納税申告書を被告立川税務署長に提出しなかったことは、原告と同被告との間に争いがない。

2  抗弁2の(二)のうち、原告が静岡県浜北市内の製造場で製造して昭和五六年一一月、同年一二月及び昭和五七年一〇月に移出した詩吟コンダクター及び邦楽コンダクターの右各月分の物品税の課税標準額が別表二の課税標準額欄記載のとおりであること及び原告が物品税納税申告書を浜松税務署長に提出しなかったことは、原告と被告浜松東税務署長との間に争いがない。

3  抗弁3の(二)のうち、原告が群馬県佐波郡境町内の製造場で製造して、昭和五七年二月ないし一一月、昭和五八年一月、同年四月ないし一二月及び昭和五九年一月ないし五月の各月に移出した本件物品の右各月分の物品税の課税標準額が別表三の課税標準額欄記載のとおりであること及び原告が物品税納税申告書を被告伊勢崎税務署長に提出しなかったことは、原告と同被告との間に争いがない。

4  そうすると、被告立川税務署長、浜松税務署長及び被告伊勢崎税務署長が、それぞれ国税通則法二五条に基づいてした本件各決定処分は適法である。

五1  原告が国税通則法二五条による決定として適法に本件各決定処分を受けたことは右のとおりであるところ、原告は、音楽学の理論から詩吟の音程練習と音楽の演奏が異なるものと考えており、また、詩吟が音楽であるとする認識が一般的であるとはいい難い実情から、詩吟のための本件物品を楽器とは認識していなかったものであるし、本件物品の製作を依頼している科学技研株式会社、税理士あるいは法人税調査を実施した管轄税務署の係官から、本件物品が物品税の課税物件であるという指摘や指導を受けることもなかったのであるから、期限内申告書の提出をしなかったことについて国税通則法六六条一項に所定の正当な理由がある旨主張する。

しかしながら、二の3のとおり、本件物品は、それが詩吟の音程練習(研修)のためという製作目的ないし用途を有するか否か、また、詩吟が音楽であるか否かにかかわらず、音楽の演奏を目的とするものであって楽器ということができるのであり、このことは、原告自身の作成した本件物品についての取扱説明書、パンフレット等に記載のある本件物件の構造、機能、使用方法等の説明から優に窺われるところであるから、本件物品の製造者である原告は、少なくとも、本件物品が楽器であって物品税の課税物件である可能性に思い至り、他からの指摘又は指導を待つことなく、自ら所轄税務官署の担当部署に問い合わせ、あるいは公正な税務の専門的知識を有する者に意見を聞く等慎重な調査を尽くすべきであったというべきところ、原告がこのような慎重な調査をしたことを認めるに足りる証拠はなく、却って、《証拠省略》によれば、原告は、本件物品が楽器ではないものと軽信し、その信ずるところを自己の周囲の者に確認する程度のことをしただけで、それを超える調査を怠り、期限内申告書の提出に至らなかったことが認められるのであるから、原告に期限内申告書を提出しなかったことにつき国税通則法六六条一項所定の正当な理由があるものと認めるにはなお不十分である。

2  そうすると、被告立川税務署長、浜松税務署長及び被告伊勢崎税務署長が、それぞれ、国税通則法六六条一項一号に則り、本件各決定処分に基づき新たに納付すべき各月分の税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を賦課した本件各賦課決定も適法である。

六  よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 石原直樹 青野洋士)

〈以下省略〉

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